
こんにちは、土地家屋調査士の安井です。
今回は建物の「滅失申出」についてのお話です。「滅失申出」とは、利害関係者から法務局に滅失登記を申出を行うことで、登記の申請とは異なります。実際にご依頼をいただいた案件を元に解説させていただきます。
1.自分の土地に知らない方の建物が存在する!?
不動産屋さんに、土地の売却を依頼されたAさん。売却の準備として隣地との境界確認を当事務所に相談されました。
当事務所で、不動産登記関連の調査をしていると、Aさんの土地にBさんという方の建物が登記簿上、存在しています(実際には不存在です)。Aさんに確認しても「Bさんの事は知らない…」ということ。Aさんにとっては、ご自分の土地に知らない人の建物が(登記簿上)存在していることになっています。
本来であれば、建物の解体後、1カ月以内に建物所有権者であるBさんから滅失登記申請をしておくべきものですが、何らかの手違いで放置されていたようです。
このまま知らぬふりをして、土地を売却すると買主さん(次の土地所有者)が困るだけでなく、銀行からの融資の承認が降りません(融資に際して、銀行は抵当権を設定するのですが、不存在の建物があるなら滅失登記を要求されます)。
さて、どうしたものでしょうか?
2.利害関係者から滅失の申出ができる
上記のようなケースの場合、利害関係者(土地所有者Aさん)から滅失登記の申出が可能です(滅失登記の申請とは異なります)。
「滅失登記の申出」とは、法務局の登記官に対して職権で建物の登記簿(登記事項)を抹消していただきたいとお願いする行為で、通常の登記申請とは異なります(登記申請は建物所有者Bさんから法務局に報告する行為です)。
上述のとおり、滅失登記の申出は、登記官の職権でなされるため、次の点について厳格な調査が行われます。
・建物が不存在なのか調査
3.登記申出書と添付書類
3-1.添付書類(不在住、不在籍証明書)
前述のPOINTで記載の事項について調査して、市役所などで公的書類を交付してもらう必要があります。その書類が「不在住証明書」や「不在籍証明書」となります。つまり、建物所有者であるBさんの行方がわからないことを証明してもらう書類です。
↑不在住証明書です
↑不在籍証明書です
「不在籍証明書」を添付するのは、滅失登記をする建物の登記事項の住所がBさんの本籍地であった場合、戸籍謄本や戸籍附票からご本人Bさんまたはその相続人を探すことができるからです。「不在籍証明書」があれば戸籍謄本からBさんを探すことは不可能ということを示します。
3-2.添付書類(非課税証明書)
建物の存在する(していた)所在の市役所固定資産税課で、Bさんの建物が課税されていないことを証明する必要があります。課税されていないといくことは、建物が何らかの理由で存在していないことを意味します。
今回の場合、市役所に事前問合せをしたところ「非課税証明書」は交付してもらえない(当方で作成した書類にも押印をいただけない)ということでした。なぜか「個人情報なので!」という回答でした…(ちょっと納得がいきませんが仕方ありません)。
3-3.上申書(印鑑証明書付)
どのような経緯で今回の申出に至ったのか、またその事情などをまとめて「上申書」を作成します。法務局の登記官に対して上申するのは利害関係者(土地所有者)であるAさんからとなります。
信憑性を高めるために実印の押印と印鑑証明書を添付する必要があります。なお印鑑証明書は3カ月以内のものでなくても大丈夫です。
3-4.登記申出書
登記の申出書は以下のような書類を作成します。
滅失建物の登記簿上の所有者Bさん(登記事項の所有者の住所、氏名)、土地所有者である申出人Aさんを明記します。それと物件の表示を明記します。
滅失申出は、オンラインで申請できませんので法務局に持参または郵送する必要があります。
また、通常の登記申請とは異なりますので、登記処理に時間がかかることをあらかじめ認識しておく必要があります。
ちなみに今回の場合は、2週間程度で滅失登記が完了しました。土地の売買取引に間に合って良かったです。
4.まとめ
今回は利害関係人(土地所有者)から滅失登記の申出をするお話でした。不動産に変更が加わった際にすぐに(1カ月以内に)申請しておれば、簡単に登記が完了するものなので、放置されないようになさってください。
特に滅失登記は忘れがちなので注意が必要ですね。