被相続人名義の未登記建物を表題登記、相続放棄もある場合~不動産登記実務編①

建物登記
土地家屋調査士 安井功
土地家屋調査士 安井功

こんにちは、土地家屋調査士の安井です。

今回は実際にご依頼いただいた登記業務に関するお話です。

ご依頼いただいた内容は「被相続人所有の未登記建物を登記してほしい」ということでした。実務的に注意すべきポイントなどお話したいと思います。




1.ご依頼内容(被相続人所有の未登記建物の登記)

ご依頼いただいた内容について詳しく説明すると、

・亡父が残した建物(S35年新築)を相続人から登記したい
・法定相続人は子(兄弟)が3名
・子(兄弟)の内、1名は亡くなっており代襲相続人(甥)は1名
・代襲相続人(甥)は相続放棄している

2.被相続人所有の未登記建物を登記する場合の必要書類

被相続人所有の未登記建物を建物表題登記をする場合、必要となる書類として「被相続人の所有建物を誰が相続したのかを証明する書類」、「実際に被相続人がその建物を所有していたことを証明する書類」、「相続人の住民票」、「建物図面・各階平面図」ということになります。

2-1.被相続人の所有建物を誰が相続したのか証明

遺言書などが無い場合、被相続人の所有建物を誰が相続したのかを証明するためには、法定相続人が誰になるのかを調査する必要があります。被相続人と相続人の関係を調べるためには、被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本(原戸籍謄本)」が必要となります。

相続人が確定したら、誰が建物を相続されたのかを証明するために「遺産分割協議書」を作成する必要があります。法定相続人全員(共有)で相続する場合は「遺産分割協議書」が不要な場合もあります。

今回の場合、兄弟のうちの1名が亡くなっていて、その亡くなった方の子(甥)は法定相続人(代襲相続人)になるのですが、「相続放棄」されており家庭裁判所の証明書が存在しています。よって、この方は本来は法定相続人になりますが、「遺産分割協議」には参加することなく所有権は認められません。





2-2.被相続人が建物の所有者であることの証明

実際に被相続人が未登記建物を所有していたことを証明するためには、「建物の建築確認書」・「建物の検査済証書」・「工事施工者の引渡証明書、領収書、契約書」等々の書類が必要となります(実務的に2つ以上+「建物固定資産税評価証明書」)。

今回のご依頼は、建物が新築となったのがS35年でした。約60年前に建築された建物なので、工事施工者がどこのお会社なのか不明、建築確認書や領収書などの書類がありません。

こんな場合は、「所有権証明書」と「上申書」で所有権を証明書するしか方法がありません。「所有権証明書」は所有者が誰にあるのかを熟知している成人2名(実印+印鑑証明書)が必要です。また「上申書」は建物の相続人から被相続人が所有者であること、自分が相続したことを証明してもらいます(実印+印鑑証明書)

3.未登記建物の調査

今回のご依頼の場合、未登記建物は市役所で固定資産税評価がなされていましたので、市役所で未登記建物の評価に使用されている図面を閲覧させていただきました。市役所によって、コピーを交付いただけたり閲覧のみでトレース(写真)可という場合もありますので、市役所のご担当者様に確認する必要があります。

今回は市役所固定資産税課から対象建物の図面をコピーしていただけました。この図面は「建物図面・各階平面図」を作成するときに参考となります(あくまで参考で、もちろん現地優先です)。この図面が現地と合致していない場合は、増築等も考えられます。増築があると認められる場合は、増築部分の所有者が誰なのか調査および証明する必要があります。

今回の場合は、現地調査の結果、増築なども無いようでした。



4.まとめ

本来、不動産登記法上では建物が新築された場合、所有者は「1ヶ月以内に表題登記を申請する義務」があり、違反があった場合は「10万円以下の過料」となっています(実際には誰も過料を支払ったことが無いようで、今回の場合も過料の支払いはありません)。

被相続人が所有していた古い建物(未登記建物)を相続人が登記するには、上記のような大変な労力が必要となってしまいます。また被相続人の戸籍謄本を集めたり、相続人が多い場合は遺産分割協議書への押印(実印+印鑑証明書)の協力がいただけない場合もありそうです。

通常の登記に比べて、時間や費用がかかってしまいますので所有者が生前の内に登記されておかれることをおススメいたします。




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